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広告寄与の算出


広告以外に売上を左右する要因 - 撹乱要因

 広告媒体の費用対効果を算出するには、分母に投下費用、分子にその広告媒体に由来するリターンを入れるわけですが、そもそも売上は広告やプロモーションだけで規定される訳ではありません。広告以外にも市場の様々な要因に影響されて売上は増減します。この様な要因を”撹乱要因”と言います。

 主だったものをざっと挙げてみます。まず広義の販売促進で考えれば、広告、プロモーション以外にも

・人的販売(営業販売機能)
・パブリシティ

 があります。オウンドメディアやソーシャルメディアでコミュニケーションを行っている場合はその効果もあるでしょう。

・オウンドメディア、ソーシャルメディアの効果

 キャンペーン以前に既に構築されているブランドエクイティの効果が考えられます。例えば以下の様な要因からの効果です。

・信頼感
・安心感
・知覚品質
・知名度
・ブランドレレバンス

 過去に打った広告やプロモーションの効果が遅れて、もしくは残って現在のターゲットの行動に影響を与えているかもしれません。古川、守口、阿部ら(2011 ※1)によれば、広告の長期効果は短期効果の約4.5倍あり、軽視する事はできません。広告の効果がどれ位持続するのか(残存効果)については投資対効果の立式で見ていきます。

・過去実施した広告からの遅延効果
・過去実施した広告の残存効果

 プロモーション以外の4Pの効果も考慮する必要があります。

・実際使ってみた製品の良さ、満足度
・製品のデザインやユーザビリティ
・価格
・流通量(カバレッジ、インストアシェア、フェース率)

 消費者の購買習慣に由来する効果もあります。

・チェリーピッキング(その場その場で一番安いモノを買う)
・いつも買っているブランドしか買わない
・第三者からの推奨、評判、口コミを参考にして買う

 企業がコントロールできない外的要因としては、以下の様な要因があります。

・トレンド(景気変動、季節性)
・競合の広告やプロモーション
・小売店独自の店頭プロモーション

 以上は一例であり、商材やターゲットによって要因の種類や影響力の大きさ、影響のパターンは変化します。いずれにせよ、自社商材の場合に広告以外にどのような要因の影響が強くなるのか、どんなターゲットの場合にどの様な影響パターンを考慮する必要があるのかを検討し、モデル化した上で切り離す事が重要です。


広告寄与の算出

 さて、広告による純粋な増分リターンを計算するにあたって、これら撹乱要因の数や種類、購買行動に対する影響の大きさ、パターンなどを把握した上で、「売上の内、何%が広告によって発生したのか」を推定する必要があります。利益ベースで考える際も同様です。広告由来の売上を算出してからでないと、広告由来の利益は計算する事ができません。

 S(t)を総売上、広告以外の撹乱要因をxi∈X(i=1,…,n)、X(t)を撹乱要因に由来するリターンの合計額とした時、広告に由来する増分リターンS(A)は以下の様に定義されます。

 (3-1),(3-2)式は、「ある時期の各撹乱要因に由来する売上の和をとって総売上から減じれば、広告に由来する部分が求まる」という意味です。式で一般化すると足し算引き算で求まるように見えますが、実際の分析にはやや難しい数学やシミュレーションが必要になります(※2)。

※1 古川一郎・守口剛・阿部誠(2011)『マーケティングサイエンス入門』有斐閣

※2 こうした撹乱要因の影響は、商材によって影響の発生するタイミングやインターバルが異なります。季節変動や経済変動は多くのセグメントに共通して周期的な影響を与えますが、多くの撹乱要因の影響パターンは人によって変わってくるものです。「消費者の異質性」と言い、本来モノの買い方は消費者個々人で異なるからです。

 そうすると、売上に対する個別の撹乱要因の影響を表す関数f(x)が非常に複雑な形状の関数になり、そもそも構造化(微分方程式を立てる事)自体が難しくなります。また、立式できても必ずしも積分できるとは限りません。平たく言うと、解けるとは限らない何本もの同時方程式を解かなければいけない事になります。直接立式して解くのが難しい場合、数値解析(機械学習やベイズ統計を使ったシミュレーション)で近似的に求める事になります。