HOME >  ROI入門 目次 > 

広告効果は金額換算できない?


広告効果は金額換算できない?

 前回(コストの算出)前々回(広告効果の分解)のエントリーで、ROIのリターンとコストを算出する為の考え方については一応の整理がつきました。

 さてROIは投資収益率を表しますので、利益(売上)/費用として金額ベースで計算される指標です。Chapter3では「広告に由来するリターン」を金額ベースで算出できる事を前提に話を進めてきたわけですが、そもそも広告効果を金額換算する事が本当に可能なのでしょうか? 可能だとしても、広告やプロモーションの費用対効果は常に金額ベースで扱われるべきなのでしょうか?

 今回のエントリーではChapter3の締めくくりとして、ROI算出の前提となる広告効果の金額換算にまつわる「そもそも論」や「べき論」についてお話していきたいと思います。

 

「金額換算できない」or「費用対効果が測定できない」時もある?

 金額換算できない広告効果や媒体もある、という議論があります。例えば、「ロイヤルティの向上」や「エンゲージメントの構築」「顧客とのリレーションの強化」などの潜在的なもの、媒体で言えば「Facebookのいいね」「ツイート数」などのソーシャルメディアや評判の価値などです。

 これらが金額換算が出来ない理由としてよく挙げられるのが、それがどう購買や売上に繋がっているのか分からないから、というものです。つまり「いいねやツイートが増えて売上が増えるなら良い。ただそこに因果関係があるのか、どう繋がっているのか分からないから金額換算ができない」といった趣旨のものです。これは、従来からマス媒体についても言われてきた事でもあります。


成果と手段は「繋がる」ものではなく、「繋げる」もの

 まず命題として問うべきは、これらのいいねやツイッター、エンゲージメントやロイヤルティが「そもそも金額換算できるかできないか」ではなく、フェイスブックやツイッター等を手段として、「購買に繋げていく”戦略”があるかないか」です。広告に限った事ではないですが、手段と成果は「繋がる」ものではなく、「繋げる」ものです。手段としてのソーシャルメディアをどう売上という成果に繋げるか、という明示的なコミュニケーションデザイン(ターゲットのキモチに作用する様に設計された仕組みや導線)が無ければ、当然金額換算する事はできませんし、それ以前に広告効果を算出する事もできません。何故なら立式出来ないからです。

 効果とは、目的やゴールに対する手段の寄与・影響の大きさを示す指標です。手段としての広告効果を金額換算するには、効果が金額で評価可能な成果(売上や利益)に至るまでのプロセスをモデル化する必要があります。モデル化というのは「数式で書く」という意味で、Y(成果)=f(手段)の形の関数として記述する事です。媒体が広告目的に対して「どういう位置づけで、どの様な効果を発揮させるつもりなのか」というブループリント、つまり戦略が広告主側で決まっていなければ、その影響の道筋を数式で表現する事はできません。

 従って、そもそも「どう購買や売上に繋がっているのか分からないから、金額換算できない」という表現は正しくありません。正確には「売上にどう繋げるつもりなのか決めていないから、金額換算できない」です。


金額換算も費用対効果も、目的と戦略ありき

 逆に、戦略があれば、成果までの道筋が立ちます。図1の様な、簡単なコミュニケーションデザインで考えてみます。

広告効果の金額換算

図1:広告効果の金額換算

 このデザインでは、TVと雑誌が製品を認知させて関心を持ってもらう役割を担っています。オウンドメディアやソーシャルメディアはマス媒体の受け皿として、ブランドの評判に触れ、もっと知りたいという気持ちを高めてもらう為のメディアです。店頭媒体には、セールスアクティベーション(刈り取り)の機能を持たせています。購買後、再度オウンドメディアやソーシャルでエンゲージメントが高まる事でリピート購買したり、よい評判を書き込みたいというモチベーションループも期待されていています。

 この様に、ターゲットのキモチを動かす事を主軸において、購買行動プロセスと媒体間の導線や相互作用を明示的に意図したクロスメディアのブループリントがあれば、それを基に方程式を立て、データを集め、方程式を解けば広告効果が求まります。そして広告効果の分解を行えば、個別媒体ごとのリターンを算出できます。設定したブループリントが正しいか、つまり方程式の立式が正しいかを検証して、間違っていれば修正する方法も現在では色々提案されています。ROIを算出したければ、各増分リターンを各媒体にかかった費用で割るだけです。

  POINT
 「広告を手段として、どう購買や売上に繋げていくつもりなのか」という戦略プロセスが明確であれば、どんな媒体であれリターンを算出する事は可能です。ROIを算出したければ、それを各媒体にかかった費用で割ります。つまり、広告効果を金額換算したりROIを算出するにも「目的と戦略」及び「投資が成果を生み出すプロセスの設定と検証」が大切、という事です。

 

金額ベースの費用対効果算出ができない場合 – 分母側の理由

 さて、費用対効果を金額ベースで計算できない場合もあります。それは、「コストが計上できない場合」です。ROIの分子については、広告が成果(購買や売上)に繋がるプロセスを立式できれば、リターンとして広告効果を金額換算可能である事は既に述べました。しかしコストが計上できなければ分母を金額として表現できない為、結局金額ベースで費用対効果を計算できません。

 まず、媒体コストが計上できない場合を「口コミ」を例に考えてみます。フェイスブックやツイートの公式アカウントであれば、人件費や集客コスト、ツールやアナリティクス利用料等をコストとして計上可能でしょう。しかし非公式のアカウントや、ブログ、発生源が明らかでないWOMについては(その効果は金額換算できても)費用の計上ができません。と言うよりむしろ、費用がかかったのかどうか、広告主側でも把握できない部分があると思います。

 次に、購買行動プロセスに対する費用対効果を調べる場合を考えてみます。購買はいきなり起こるわけではなく、そこに至るまでのプロセスがあります(購買行動プロセス)。そして、そのプロセスを促進して潜在客を購買に導く事も、広告の重要な役目です。通常、購買行動プロセスには複数のステージを仮定し、広告媒体ごとに特定の行動を促進する役割を持たせている事もあります。例えば、TVは認知拡大と興味喚起、Webは製品理解と比較、店頭媒体はブランド再認とオンサイトでの購買動機の形成、などです。この様な場合、ステージ毎にどの媒体がどれ位の費用対効果があるのか確認したくなると思います。

 購買が成果指標であるのに対して、購買ステージ毎の費用対効果は「プロセス指標」と呼びます。プロセス指標の場合は分母が常に明確とは限りません。媒体計画を立てる時、普通はコストをプロセス毎に振り分けたりはしないからです。例えば、スポットで1本CMを打つのに1億使ったとして、その内5000万円分は認知拡大用に使って、2000万円は興味喚起に使って・・・の様な考え方はしないと思います。従ってROIの分母が決まりませんので、認知や関心の様なプロセス指標については、金額ベースのROI表現が適さないという事になります。

費用対効果に、必ずしも金額換算が必要なのか?

 さてここまで広告効果の金額換算や金額ベースの費用対効果ができる/できないという視点で話をしてきました。しかしもう1つの視点として、そもそも「金額換算が必ずしも必要なのか?」という視点があります。ROIを求める事は、手段であってゴールではありません。ゴールは、広告の費用対効果を知った上で最良の意思決定を行い、広告目的をより効率的に達成する事です。従って、「ざっくり広告のコスト効率性が分かれば、意思決定に十分」な場合は、そもそも金額ベースのROIにこだわる必要がありません。

 前項の成果とプロセスの話の流れで言えば、「手段は金額換算するべきではない」という考え方もあります。金額ベースでの費用対効果が必要なのは購買や売上、利益などの「成果」であって、”刈り取り”ができていない「プロセス」の状態を、成果として金銭価値に直すのはおかしい、という視点です。

 広告の直接的なゴールが”購買”以外の場合、費用対効果の金額換算は必ずしも必要ではないでしょう。例えば、目的が認知拡大の場合や、CSR、パブリシティを含む場合です。勿論、これらも最終的には購買や売上増に繋げたいわけですが、一義的な目的が直接的に金銭価値で判断されない場合は、金額ベースの指標でなくともワークします。

 また、広告費用以外のコストも併せて考える場合、金額ベースの算出が即さないという事もあるでしょう。例えば広告の投下期間、かかった時間に対してどれ位のリターンが得られたのか、というような効率性を知りたい場合です。更に、目標とする認知率をどれ位の時間で獲得する事が出来たか、という「時間対効果」を考える場合、分子分母共に金額ではなくなりますので、金額ベース以外の方法が望まれます。

広告費用対効果のスコアリング

 これらの様に必ずしも金額換算が必要でない場合や、購買行動プロセスに対する費用対効果を求めたい場合には、インターネットリサーチやシングルソースデータなどを用いて、広告の費用対効果を「スコア化」して算出する方法があります。シングルソースデータの網羅性やアンケートデータの利便性を取り入れる事で、金額ベースの方法に比べ、より豊かな診断や改善施策の構築を行う事が可能です。これについては、また後のエントリーで扱います。次回からは、いよいよ費用対効果の計算ロジックについて話を進めていきたいと思います。