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木戸教授の「広告コミュニケーション入門講座」 – 広告管理のABC


はじめに – 連載の目標

 広告効果に関する基礎的な知見を磨き、広告管理に関する「目利き(connoisseur)の眼」を養うことを連載の目標とする。読者への期待(成果)はマーケティングにおけるブランド戦略としての広告管理について、コミュニケーション・プランニングの観点からの実践的知識の修得と計量的アプローチによる新しい広告コミュニケーション・モデルに関する造詣である。

 この連載では、広告管理をする人の観点に立って「業界」では「常識」とされてきた広告効果に関する従来の知見や経験則について広告活動の各プロセスに沿って最新の調査データをもとに科学的なアプローチによる解説を試みる。 特に、「測定なくして、管理なし」の原則的な立場から、広告出稿側としての「押さえどころ」を中心に広告管理の話をしていきたい。また、広告の効果が見え難くなってきたと言われて久しい。この原因についても連載の中で考察したいと思っている。

また、連載は以下の6話で構成する予定である。
  1.広告管理の話:基本のABC
  2.広告メディアと広告効果測定の話:視聴率と広告効果調査
  3.広告効果予測の話:到達率と接触回数分布を予測するシステム
  4.広告計画の量と質の話:広告効率の診断
  5.広告管理とブランド管理の話:広告とブランド価値形成
  6.広告コミュニケーションの話:理論モデルの例

第1話 広告管理の話:基本のABC - 広告管理のABCとは

 広告管理の基幹となる課題領域を語呂合わせ的に表現すると、Allocation、Branding、Communicationの3つの基幹領域がある。広告管理のABCである。広告管理のAは広告媒体の選択と配分の領域である。広告管理のBはブランド構築を主眼とした戦略の実行手段としての広告管理の領域である。広告管理のCは広告コミュニケーションに関する領域である。広告評価データと統計学的なアプローチによる広告コミュニケーション・モデルの領域である。

広告管理のA(広告媒体の選択と配分:Allocation)

 広告管理Aの基幹となる「作業領域」の一つは広告媒体計画の立案である。最初の作業フェーズは広告予算の設定である。設定方法は一般的な分類では次の4つの設定法がある。

広告予算の設定法の分類:
1. 競合同率法(Competitive-Parity Method)
   競合他社と調和均衡を目指す予算設定法。
2. 売上比例法 (Percentage-of-Sales Method)
   売上高の一定比率を広告費に設定する方法。
3.可能額配分法(Affordable Method)
   企業として支出可能な金額を広告費に設定する方法。
4.目標/タスク設定法 (Objective-and-Task Method)
   タスクごとの目標を設定する方法。単純化したシステムのイメージは以下の仮想モデル図(図1)を参照。

 1から3の設定方法は解説文の通りである。多くの企業ではこれらの設定方法の組み合わせで実質的な予算が決定されている。4番目の目標/タスク設定法の場合は、データをもとにした科学的且つ、統計学的なアプローチである。しがしながら、あまり普及しているとは言えない。図1の仮想モデルは目標のブランド・シェアから必要な広告費(テレビ)を関数モデルの連結によって「逆算」するタイプのモデルの例である。広告管理の実績データ(調査データ)を「統一形式」で長期間蓄積すると簡単に作れるシステムである。基本的には、配分された広告予算から各管理指標を推定してブランド・シェア(売上額)を予測するシステムでもある。図1の中で、使用されている「リーチ」、「GRP」、「認知率」、「トライアル」(「リピート」)などの「管理指標」の定義は第2話で詳しく解説する。



目利ポイント1 広告管理の実績データは「統一形式」で長期間蓄積すること

 上の図1のような単純な関数電卓的なシステム構築であっても、広告管理の課題意識が全社で継続的に共有されていないと実現できない。それは、広告管理担当マネージャが交代したり、担当広告会社が交代したりすると、「諸般の事情」で統一形式の長期蓄積データを作成することができなくなることが多いからである。多額の広告費や調査費用の投資コスト化の観点からも、将来の広告管理システム構築の観点からも実績データは「統一形式」で長期間蓄積することが望まれる。

 次に、多くの広告担当者にとって予算獲得後の最大の課題は、広告費の配分問題(Budget Allocation)である。配分は「地域区分」、「対象者区分」、「期間」(Area / Target / Period)を考慮したものでなければならない。これらと同時に広告媒体の配分問題(Media-Vehicle Selection)がある。広告媒体の配分問題は厳密には、どの広告媒体のどの広告枠との組み合わせ(Media Mix ・Vehicle Mix)にするかの意思決定の問題でもある。

 これらの広告媒体計画の立案をサポートするシステム(Media Planning System)には2つのタイプがある。広告媒体の配分の最適化を目的とするOptimizerと計画の実行可能性と妥当性に重点を置いた、試行錯誤を前提としたSimulatorである。Optimizer 型のシステムでは線形計画法(Linear Programming)などがよく使われている。また、Simulator 型ではSystem Dynamics Modelなども使われている。第5話あたりで事例の紹介をする予定である。

目利ポイント2 広告媒体の配分の最適化を目的とするOptimizerは使える

 業界では計画の実行可能性・妥当性に重点を置いた試行(実験)型Simulatorが主流である。最適化を目的とするOptimizerは広告計画の初期段階で参考にはするが広告の売買の現場では、広告業界の商習慣との関係であまり活用されていないのが実情である。テレビ広告の場合に限定すると、広告業界の商習慣では原則としてCMを時刻や曜日を指定して一本、一本買うことが出来ない。セット販売的にテレビ局別の「出稿パターン」単位での取引である。最適化を目的としたOptimizerの利用は限定的にならざるを得ないのが実態である。但し、大量のCM広告枠の「バルク購入」による最適化は可能である。購入した在庫の広告枠中からOptimizerを使って複数のブランドへの再配分をしてCMの出稿パターン(CM挿入時点)の最適化を図る運用方法である。但し、このようなシステムの開発、運用には潤沢な予算と広告計画に対する高度な見識が要求される。しかし、システムが一旦、軌道に乗れば、広告枠のbuying-powerやman-powerの強化のみならず、その広告費用対効果は絶大である。


(次回に続きます。最新の更新情報は、Facebookページにて随時更新しています。)


木戸 茂 法政大学経営大学院 教授
<略歴>
 1970年 (株)ビデオリサーチ入社。 同社情報開発部長、研究開発局長、マーケットリサーチ事業局長、 常務取締役、顧問を歴任(2011年退任)。同社では視聴率・広告統計サービス・システム(iNEX)の開発、 ブランド・マーケティング支援データベース・システム、広告計画モデル等の研究開発を担当。1999年度より法政大学大学院・客員教授、 2002年より講師。 2010年度より同志社大学大学院ビジネス研究科・講師。2012年度より法政大学経営大学院・教授。学位:博士(経営学)。主な著書は「広告マネジメント」(朝倉書店)、「広告効果の科学」(監修・著)日本経済新聞出版社(2009年)。