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第2話 広告メディアと広告効果測定の話:視聴率と広告効果調査


広告メディアと広告効果測定の話:視聴率と広告効果調査

 広告管理Aの基幹となる「課題領域」の一つは広告媒体計画の立案である。

 第1話では広告媒体計画の広告予算の設定方法として4つの設定法があること、Optimizer 型とSimulator 型のシステムが使われていることを紹介した。

 ここでは広告媒体計画の立案のためのSystemに供給するデータ・ベースの源となっている広告効果調査について概観し、それらの調査から得られるデータ、特にその測定尺度についてやや詳しく解説する。広告効果の測定尺度(効果指標)に関する「知識」は広告効果を語る上で非常に重要である。


広告目的と広告効果指標

 広告目的の設定は広告効果指標の選択である。広告効果を測定する上で広告目的の設定と明確化は非常に「クリティカル」で、表裏一体のものである。

 図2-1は広告効果の階層構造を表現したものである。特にインターネットを強く意識した、広告計画の中で広告メディア、ビークル(広告枠)別にその効果の「比較」管理を行う場合に用いられる指標である。表裏一体の広告目的との対応で見ると、最上階に位置するR.O.I.( Return On Investment)は広告が正に長期的な「投資」目的である場合の経営レベルの効果指標である。

・Loyal Customerは「ブランド・ロイヤル」な顧客の維持・獲得を広告目的とする場合のブランディング・レベルの効果指標。Profit とSales は広告による販売と利益を広告目的とする場合の財務レベルの効果指標である。

・Leads は広告接触によって引きつけることの出来た「問い合わせ」などを広告目的とする場合の顧客の行動喚起レベルの効果指標。

・Advertising Persuasion Advertisingは広告接触によるイメージ向上など「態度変容」を広告目的とする場合の意識レベルの効果指標である。

・Recall Advertising広告接触によるブランド名や広告メッセージの「記憶」を広告目的とする場合の認知レベルの効果指標。

・Vehicle Exposure は広告メディア、ビークル(広告枠)への接触実態を測定する場合の接触レベルの効果指標である。テレビ視聴率がこれに該当する典型的な効果指標である。

・Vehicle Distributionは広告の掲載可能性のあるマス媒体の普及(台数、累積普及率)レベルの指標である。テレビ受像機、PC、携帯電話などの普及台数、新聞や雑誌(印刷媒体)の発行部数、web-siteの「visit数」などがこれに該当する典型的な効果指標である。


広告効果指標の階層レベル


図2−1.広告効果指標の階層レベル


目利ポイント3 広告効果指標は広告目的に従う

 広告効果の測定尺度に関する「見識」は広告効果を語る資格をあたえる。例えば、マーケティング活動の中での広告の主要な役割は「ブランド・ロイヤル」な顧客の獲得と維持であると定義するならば、Loyal Customerの獲得を広告目的とするべきである。R.O.I.もProfit もSalesもその結果である。「組織が企業戦略に従う」ように、管理対象の広告効果指標は広告目的に従うべきである。

Vehicle Exposureの測定指標

 広告メディアのビークルへの接触実態を測定する場合の指標を提供する調査は以下のものがある。広告業界標準として、いずれもサービスされている※ものである。


※詳細な調査概要や最新の結果については次のURLを参照。
(http://www.videor.co.jp/service/media/top.htm(ビデオリサーチ社))


広告媒体接触調査の種類:
テレビ視聴率
ラジオ聴取率調査
新聞閲読率調査
雑誌閲読率調査
交通機関/利用駅調査
屋外広告接触調査
インターネット(Web Site)利用調査


接触レベルの広告効果指標の概念と定義:
 広告への「接触」確率は、GRPと「到達率」で計られる。広告計画は、個々の広告への接触率(Ratings:視聴率など)の合計であるGRP(Gross Rating Points =Σ Ratings)とReach & Frequency(R&F)の「値」をベースに語られる。

 厳密には累積到達率(cumulative reach)と平均接触回数(average frequency)である。この両者は、Reach x Frequency = GRPの関係にある。GRP(延接触率)が広告計画の予算に直結した、計画の規模(scale)を表現する指標である。

 到達率は広告をどの程度の広がりで消費者に最低1回見せるか、計画の範囲(scope)を表現する指標である。

 接触回数は広告を消費者に何回繰り返し見せるかを決める、計画の深度(depth)を表現する指標である。

 GRPが計画の要になる重要な指標であることがわかる。GRP(延接触率)と広告予算の関係を表現する指標としては、CPM(Cost Per Mill)、「千人当り広告費」が広告媒体別の接触レベルでの「費用効率」を表現する指標として頻繁に使われている。(注:Mill =1000)


 計算式は、CPM ={ Cost/ (GRP/100) x Target Population}x1000である。

目利きポイント4 CPMの使い方

 CPMはテレビ広告の予算配分時の計画案の比較が主な用途であるが、媒体間の比較の場合は、何を「効果指標」としてGRP計算するかによって値が大きく異なるので要注意である。広告目的や広告プロセスに沿った媒体選択の判断が要求される。下図は購買時点での「説得力」を指標にした場合の媒体間比較の仮想例である。

広告メディアのCPM比較

図2−2.広告メディアのCPM比較

 GRPベースの他の指標としては、GI : Gross Impressions = (GRP/100) x Target Population やCPP: Cost Per Rating Point(1% cost) = Cost/GRPなども使われている。

Reach(到達)の概念と分布形の予測

 GRPは単純に「広告」への接触率を合計した指標であるが、到達率はGRP(=A+B)から重複部分(C)を差し引いた値である。図3から一見、到達率は単純に計算できそうな指標であるが、実は媒体調査の標本個別データがないと実測計算できない厄介な指標である。


Reach(到達)の概念

図2-3Reach(到達)の概念と分布形の予測

GRP = A+B=45%
Reach = GRP — Duplication
= 20+25-5=40%

 しかし、重複部分の大小が分かると接触回数の分布形を予測し、広告投下パターンの広がりと深さ、平均接触回数を計算することができる。

 図2-4の上段のグラフは重複部分が少ない場合、到達率が高く広告投下パターンの広がりが大きい場合の典型的な分布形である。下段のグラフは重複部分が多い場合、到達率が低く広告投下パターンの広がりが小さい場合のU字型分布形の例である。接触回数の分布形によって広告計画が広告目的に沿っているかどうかを診断することができる。

接触回数分布の概念

図2−4 接触回数分布の概念


 すなわち、重複部分の大きい投下パターンは同じ人に同じ広告を繰り返し何度も接触させる事を目的とする「深耕」型の広告計画で、重複部分の小さい投下パターンは出来るだけ多くの人に1回でも広告に接触させる事を目的とする「浸透」型の広告計画であると言える。但し、述べ接触率(GRP)÷累積到達率(Reach)=平均接触回数(Frequency)の関係にあるので、一定水準以上のGRPがあれば「浸透」型の広告計画の場合でも高水準のFrequencyを獲得する事ができる。


(次回に続きます。最新の更新情報は、Facebookページにて随時更新しています。)


木戸 茂 法政大学経営大学院 教授
<略歴>
 1970年 (株)ビデオリサーチ入社。 同社情報開発部長、研究開発局長、マーケットリサーチ事業局長、 常務取締役、顧問を歴任(2011年退任)。同社では視聴率・広告統計サービス・システム(iNEX)の開発、 ブランド・マーケティング支援データベース・システム、広告計画モデル等の研究開発を担当。1999年度より法政大学大学院・客員教授、 2002年より講師。 2010年度より同志社大学大学院ビジネス研究科・講師。2012年度より法政大学経営大学院・教授。学位:博士(経営学)。主な著書は「広告マネジメント」(朝倉書店)、「広告効果の科学」(監修・著)日本経済新聞出版社(2009年)。