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第3話 広告効果予測の話:到達率と接触回数分布を予測するシステム


広告効果予測の話:到達率と接触回数分布を予測するシステム

 第2話で紹介した広告計画の基本管理指標である接触レベルの広告効果を表すReach & Frequency(R&F)の予測、推定にはベータ・2項分布(BBD)モデルが業界標準モデルとして使われている。

 このモデルの最大の特徴は非常に当てはまりが良いことである。さらに、出稿回数(本数)と平均の接触率と重複率の3つの値があれば非常に簡単に高速計算できることである。但し、先に触れたように重複率の実測計算(個別標本集計)がネックである。そこで、テレビ広告を中心とする計画システムの場合、計画段階の目標のGRPと広告の投下パターン(期間、局、時間帯など)から重複率を推定してBBDによる到達率と接触回数(分布)を予測するのが業界標準的な仕様となっている.

 テレビ広告以外では雑誌広告のR&F推定にも「ベータ・2項分布(BBD)モデル」が使われている。インターネット広告、ラジオ広告、CATVや衛星放送の広告の場合の数学モデルは負の2項分布(NBD)モデルがグローバルな業界標準である。このBBDモデル及びNBDモデルの計算プログラムは非常にシンプルで高速処理に向いているが、極端に平均の接触率が異なる媒体や広告枠をミックスする広告計画の場合にReachの推定値がアンダーになる傾向がある。このため、ややモデルの複雑化と計算時間の増加は避けられないが多媒体(Media Mix)用のR&F推定システムとしては正準展開(canonical expansion)モデルが予測精度の点で優秀であることが実証研究で示されている。(参考文献:木戸 茂(2004)『広告マネジメント』朝倉書店、頁37−54)

 日本では1970年代からこれらの予測モデルがビデオリサーチによって業界標準としてその詳細の計算仕様が開示されている。

 以下は、Scilab(フランスのINRIAで開発されたopen sourceの科学計算用言語)で記述したBBDモデルを組み込んだ「仮想」のReach & Frequency予測システムの実行例である。

Scilab版BBD モデルの実行条件と推定結果

GRP=1200% 、本数=100 、投下パターン(全日型)=1(yes)、使用TV局数=5という推定計算の条件でp2/p1 ratio(「平均視聴率」と「重複率」の比)を回帰推定した結果を用いて「重複率」を推定した例を示す。
計画の出稿回数(n)と平均の接触率(p1)と推定した重複率(p2)の3つの値は、

計画本数  (n)=100
平均視聴率(p1)=0.120000
推定重複率(p2)=0.020868
である。

この3つの値から計算した「ベータ・2項分布」の分布形状を決定するパラメータ、l, mの値は

l = 1.839139
m = 13.487021
である。

このパラメータ、l, mの値から求めたBBDモデルによる推定計算の結果は、

累積到達率 (Cum. Reach) = 97.9 %
平均接触回数(Average Frequency = 12.3 回
p2/p1 Ratio = 0.173901
である.


BBDモデルによるR&F推定シミュレーション

 広告計画の条件を一定にして、GRPを1200%と600%の場合の比較を行ったのが図—1である

計画GRPの比較グラフ
図3-1 計画GRPの比較グラフ


木戸 茂 法政大学経営大学院 教授
<略歴>
 1970年 (株)ビデオリサーチ入社。 同社情報開発部長、研究開発局長、マーケットリサーチ事業局長、 常務取締役、顧問を歴任(2011年退任)。同社では視聴率・広告統計サービス・システム(iNEX)の開発、 ブランド・マーケティング支援データベース・システム、広告計画モデル等の研究開発を担当。1999年度より法政大学大学院・客員教授、 2002年より講師。 2010年度より同志社大学大学院ビジネス研究科・講師。2012年度より法政大学経営大学院・教授。学位:博士(経営学)。主な著書は「広告マネジメント」(朝倉書店)、「広告効果の科学」(監修・著)日本経済新聞出版社(2009年)。